人工ニューラルネットワークを始めとして,生体神経系のダイナミクスに学び応用した情報処理・機械学習システムの研究・開発はこれまでも盛んに行われてきました.本研究では,とくに生体神経系のダイナミクス(神経活動)及び学習(神経結合)における確率的に見える挙動(ゆらぎ)に着目し,それらが持つ計算論的な意味を機械学習との比較によって明らかにすることを試みました.まず神経結合のゆらぎについて検討したところ,神経活動の減弱や過増強に対する堅牢性(恒常性)に貢献していることを,シミュレーション及び理論解析の両面で確認しました.このことは神経結合の恒常性を現象論的・機能的な観点だけではなくメカニズム的に説明できるという点で意義ある結果です.また恒常性が計算論的に果たすと考えられている様々な機能が,単なるゆらぎから得られることを示唆しています.一方神経活動については,そのダイナミクスを決定論的に記述した場合でも,振る舞いが確率的に見えることがあります.この性質は信頼性のある情報処理には難点と考えられてきました.しかし,この振る舞いが比較的質の良い擬似乱数の生成や確率分布の近似として有用であるという予備的な結果を得ました.この結果は生体神経系モデルを用いたベイズ的生成モデルの構築の基礎となりえます.以上の点から,本研究はダイナミクスと学習の両面におけるゆらぎについて,その意味付けと応用への基礎的な成果です.
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