環境ガス、医療用途の光センシング用光源として中赤外波長域で高い光出力を持つ半導体レーザの需要は大きい。これまで波長2.5~5ミクロン帯は半導体材料の基板の格子定数による材料制限により作製が難しく、近赤外帯域に比べると半導体レーザの開発が遅れていた。 本研究では、有機金属気相成長法を用いて、基板の格子定数による制限を緩和するために意図的に転位を導入し、仮想的に異なる格子定数をもつ基板を作製する技術(メタモルフィック成長)を中赤外帯域に応用した。 理論的検討として、仮想的な基板上に成長した半導体レーザを構成する材料のバンドオフセットの見積もりを行った。混晶組成および非線形因子を考慮した計算により、電子や正孔を十分閉じ込められる構造が可能であることを確認した。 次に実験的検討として、ガリウムヒ素基板上に意図的に転位を導入するガリウムアンチモンから成るバッファ層を成長し、格子定数を変化させたあと、中赤外にバンドギャップ波長をもつインジウムヒ素アンチモンを結晶成長した。結晶成長条件の最適化により、平坦な成長表面を実現した。フーリエ変換型分光光度計(FT-IR)測定により波長3ミクロンから6ミクロン帯に吸収端を持つ複数の組成の異なる結晶ができたことを確認した。 これらの検討により、これまで困難であった中赤外波長域での高性能な半導体レーザに必要な結晶成長技術の足掛かりをつかんだ。今後は実際に半導体レーザデバイスを作製し、光センシングの実証実験を行う予定である。
|