研究実績の概要 |
原発性肝癌の一つであるFibrolamellar Hepatocellular Carcinoma (FLC) は若年者に多く、根治的治療は外科的切除のみで化学療法や放射線療法は奏功せず、予後不良な疾患である。病因は不明であり、病態解明や治療につながる研究が困難である大きな要因として、現在までに細胞株や動物モデルが存在しないことが挙げられる。我々はFL-HCC患者腹水由来細胞をKubota's Mediumで培養後に免疫不全マウスの皮下に移植し, 世界に先駆けてマウス体内で継代可能なFL-HCC patient-derived xenograft (PDX) tumor modelの確立に成功した。近年, ヒト正常肝組織において肝細胞と胆管の2方向性分化能を持つ細胞である肝幹細胞のさらに前駆細胞で, 肝外胆管組織に存在し, 肝細胞や胆管のみならず膵内分泌細胞の3方向性分化能を持つ細胞として胆管系幹細胞が同定されたが, FL-HCC PDX model由来細胞はDNAJB1-PRKACAおよび癌幹細胞様の特性を持ち合わせており, ヒト正常肝幹細胞から成熟肝細胞の各分化段階細胞を用いたRNA-sequence解析から, その遺伝子発現パターンが正常胆管系幹細胞に類似していることが明らかとなった。これらの結果と癌幹細胞と正常幹細胞が類似した特性を持ち自己複 製能制御機構の破綻が癌化につながる可能性が示唆されていることから, FL-HCCの起源は胆管系幹細胞が悪性形質転換した細胞である可能性が考えられた。我々の確立したFL-HCC PDX tumor modelは研究ツールとして従来困難であった癌幹細胞の自己複製・増殖・分化制御メカニズムを直接FL-HCC由来細胞およびマウス個体レベルでの解析を可能とし,FL-HCCの病態解明のみならず将来的な新規治療法の開発への応用を含めたFL-HCC研究のさらなる発展へ大きな寄与が期待される。
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