アルツハイマー病は、アミロイドβタンパク質(Aβ)が脳内へ蓄積することにより発症すると考えられている。このAβは、細胞内でアミロイド前駆体タンパク質がβ-secretaseおよびγ-secretaseによる連続的切断を経て、カルボキシ末端長が異なる40アミノ酸程度のペプチドとして数種類産生される。本研究は、tetraspanin (TSPAN)がγ-secretase活性に影響し、Aβの産生量を変化させている機序解明を目的とした。哺乳類において、TSPANは33種類存在することが報告されている。これまでにTSPAN6がAβ産生に影響を及ぼしていることが報告されている。そのため、TSPAN6と比較して、その他のTSPANによるγ-secretase活性への影響を検討した。培養細胞を用いて、いくつかのTSPANを一過性に発現させたところ、γ-secretase活性に影響を及ぼしている新規なTSPANが存在することがわかった。これらTSPANの影響は、TSPAN6と比較して同程度の影響、またより効果が著しいものもあることがわかった。そのなかでAβの産生を著しく低下させているTSPANに注目した。γ-secretaseは発生に重要なnotchも切断する。そのため、γ-secretase阻害剤によるアルツハイマー病治療薬の開発は、notch切断も阻害するために困難であった。TSPAN高発現下においてnotch切断への影響を細胞で検討した結果、Aβの産生を低下させたにもかかわらず、notch切断には影響を及ぼさないTSPANの存在を示唆した。つまりこのTSPANは、Aβの産生のみに影響する可能性がある。TSPANは生体内で発現しているタンパク質であるため、副作用等の懸念は少ないと考えられ、Aβの産生を特異的に抑制できる分子である可能性であることがわかった。
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