カイコ蛾の翅の模様を形成する分子メカニズムの解明を目的として、その準備および基礎となる実験系の確立を行った。 (研究項目1)翅原基での遺伝子発現はホールマウントインシチューハイブリダイゼーション法(WISH法)により調べる。そのため、本年度は実験系の立ち上げに取組んだ。まず試薬類の調製およびプローブの設計・調製を行った。次に実験の条件検討を行った。鱗翅目昆虫を利用したWISH法の先行研究より、組織の固定条件として4%パラフォルムアルデヒドによるものと9%フォルムアルデヒドによるものの2通りが考えられたので両者を比較検討した。また、組織の解剖に要する時間等についても条件を検討した。結果、遺伝子発現を確認できるシグナルが得られ、またおおむね再現性があることも確認できた。ただし、まだ染色の仕方にムラがみられ詳細なレベルで遺伝子発現パターンの再現性は得られておらず、さらに実験条件や方法の細やかなチューニングが必要である。 (研究項目2)翅で発現している遺伝子間の促進・抑制関係を調べるために、GAL4-UAS系を利用する。既に報告されているショウジョウバエのGAL4系統の翅原基で発現誘導できる系統のゲノム情報を利用して、カイコで同等と推察されるゲノム領域をクローニングし、GAL4あるいは緑色蛍光タンパク質の上流に組み込んだカイコ組換え系統の作出を行った。現在系統化を進めている。 (研究項目3)模様形成遺伝子群をスクリーニングすることを目的として、翅模様のないカイコ変異系統と翅模様のあるカイコ野生系統の遺伝子発現を比較し、発現に違いのある遺伝子群を調べた。RNA-seqにより模様形成期の初期に発現している遺伝子群について調べ比較を行ったが違いは見いだせなかった。この結果より、これら変異系統の模様がないのは、模様形成期の中-後期に発現している遺伝子群の違いであると推察された。
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