研究実績の概要 |
今年度は論文投稿や学会報告、ならびに現地調査を行った。主に取り扱ったテーマは、以下のように大別される。 1,距離の問題について。本研究が扱ってきたソ連非公式芸術の一部であるモスクワ・コンセプチュアリズムにおいては、心理的なものであれ空間的なものであれ、しばしば距離が意識されてきた。野外活動や外国との関係を通してそういったテーマが内面化されていった過程を追った。 2,言葉に対する意識。モスクワ・コンセプチュアリズムにおいては過剰なまでに言葉の存在感が強いが、そのような言語への志向性の源泉のひとつが、ウラジーミル・ファヴォルスキイという画家・版画家であった可能性がある。ファヴォルスキイとコンセプチュアリストたちの関係を、言葉への関心という視点から論じた。 3,キャラクターという概念。コンセプチュアリストたちは芸術のある種の作者性についての問いを抱えていた。たとえば、本人名義ではなく架空の作者を仕立て上げ、その人物の作品という体で展示を行うといった具合である。こうしたキャラクターに関する美学の展開に光を当てた。 現地調査においては資料収集はもとより、グループ「集団行為」のパフォーマンスへの参加や展示の観覧、ユーリイ・アリベルトやイワン・ノヴィコフ、ヤン・ギンズブルグといったアーティストとの面会などを行い、新旧の世代を問わずロシアの現代アート界の現状に触れた。とりわけギンズブルグの展示はコンセプチュアリズムを素材にしたもので、若手におけるコンセプチュアリズムの遺産について示唆を与えるものだった。
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