平成28年度は,当初の計画通りに大学生を対象とした1件のペア評定式質問紙調査を新たに実施し,さらに前年度に引き続いて実施した1件の縦断web調査を完遂した。 まず,ペア評定式質問紙調査の結果から,各パーソナリティ障害傾向は,友人間の関係性に対する評価における様々なパターンの差異と関連することが示され,関係性に対する認知およびその友人間における差異がそれぞれの特徴的な対人関係上の困難に結びついていることが明らかとなった。 そして,18歳から69歳の男女を対象とした半年間隔の縦断web調査の結果から,20代および30代は他の年代よりも境界性・自己愛性・依存性・回避性・猜疑性・統合失調型パーソナリティ障害傾向得点が高いことが示され,これらのパーソナリティ障害が青年期や成人期の早期により顕著にみられることが確認された。また,特に境界性パーソナリティ障害傾向が精神的健康を縦断的に予測することと,回避性パーソナリティ障害傾向が精神的健康の縦断的影響を受けることも示された。 一連の研究の成果より,各パーソナリティ障害傾向と関連する自己評価や関係性の認知の背景にある不安定な対人欲求や,意識的な欲求と行動の不一致,および友人との心理的距離のとり方における葛藤が,個人の精神的健康や対人的適応を阻害する一因であることが示された。また,上記の対人的特徴は友人からの評価とも密接に関連し,各パーソナリティ障害傾向が高い個人における自己評価と他者評価の間の様々なパターンの差異を引き起こすことが示された。さらに,境界性・回避性パーソナリティ障害傾向が青年の精神的健康や社会的適応に対して特に強い影響をもつ要因であることも示されたが,精神的健康度と対人関係上の困難はそれほど強く関連していなかったことから,精神的健康と対人的不適応は異なる次元の適応指標として捉える必要があるといえる。
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