研究実績の概要 |
本研究の目的は、通時的には語彙項目(内容語)に属する動詞に由来し、文法項目(機能語)の前置詞へと文法化した現象である「動詞派生前置詞」の共時的・通時的記述を行うことである。今年度の主な成果は、以下の二点にまとめられる。 第一に、昨年度に行った「除外」の意味を持つ前置詞に着目して分析を行った。「除外」を表す前置詞にはexcluding, barring, savingの他にも、頻度が高いものとしてbut, except, withoutなどがあるが、これらの事例の統計的な分布については明らかではない。これらの中でもbut, exceptに着目し、British National Corpus (BNC) のデータをランダムサンプリングし、頻度の偏りを排除した上で、品詞的振る舞いに基づき前置詞的用例を手作業により分類し、barringとの比較対照を行い文法化の「重層化 (layering)」 の観点から考察を行った。 第二に、個別事例の研究として、先行研究において記述がなされていなかったrespectingの通時的な変化について分析を行った。Oxford English Dictionary (OED) のデータをみると、respectingの前置詞化が進み、意味の漂白化がみられるのは、後期近代英語(特に18世紀後半)の時期であると考えられる。この用法は、後期近代英語期のみに観察され、その後は観察されないという点で特徴的である。また、respectingの分詞節の「意味上の主語」に着目することによって、Traugottの「(間)主観化 ((inter)subjectification)」がみられる事例と位置づけることが可能であると論じた。重要であるのは、これらのプロセスは歴史的に生じており、文法化の進行に伴うという点である。この成果は、意味変化の研究に対し、文法化・主観化の関係性について重要な示唆を与えるものと考えられる。
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