研究実績の概要 |
本研究は低酸素環境下での運動による実行機能の低下(認知疲労)の脳内メカニズムを、最新の脳機能イメージング装置である近赤外線分光法装置(fNIRS)を用いて解明し、認知疲労の抑制、回復法を見出すことを目的としている。 平成27年度までの研究により、標高3,500m相当の低酸素環境 (13%酸素濃度) でおこなう中強度運動が左前頭前野背外側部の神経活動を低下させることで、実行機能低下 (認知疲労) を引き起こすことを明らかにした(北米神経科学会議 (2016)でポスター発表; 論文投稿中)。 平成28年度は、低酸素環境での中強度運動による認知疲労に運動中のSpO2低下に着目。運動時のSpO2低下を抑制することで認知疲労が抑制されるか検討することで、運動による認知疲労のメカニズムとして運動時のSpO2低下が関与するか検討した。健常成人14名を標高3,500m相当の低酸素環境に暴露させ10分間の中強度運動(50%VO2peak)を課した。その前後にストループ課題を行い、課題中の前頭前野脳活動をfNIRSで測定した。実験条件は実験中低酸素ガスを吸引させ続ける酸素追加なし条件と、運動中にSpO2 が低下しないように酸素を追加する酸素追加条件の2条件とした。その結果、酸素追加なし条件では運動後ストループ課題成績が低下する一方で、酸素追加あり条件ではストループ課題成績低下が抑制された。この結果から、低酸素環境下での運動による認知疲労のメカニズムとして運動時のSpO2低下の関与が明らかになった。今後は運動時のSpO2低下と、実行機能低下時に低下する左DLPFCの活動の関係を明らかにするため、実行機能に関わる前頭前野の活動を解析する。現在は、ラジオメータを用いて血中のヘモグロビン、動脈酸素飽和度、酸素分圧を測定することで、認知疲労の背景に脳酸素運搬能が関係するか検討している段階である。
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