研究実績の概要 |
フェルミ準位EFに混成ギャップをもつ近藤半導体CeOs2Al10は,Ce化合物としては極めて高いTN = 28.5 Kで反強磁性(AFM)転移する。この原因を探るために, 前年度までに4f/5d正孔と5d電子ドープ系の磁性と伝導および微分コンダクタンスdI/dVを測定してきた。その結果, 三種のドープ量増加により磁性や伝導の変化は大きく異なるにもかかわらず, これらは共通して, 混成ギャップV1と反強磁性に伴うギャップVAFがTNの低下と相関して減少すること, EFでの状態密度N(EF)に比例するゼロバイアスでのdI/dVの値(ZBC)は, TNの低下と逆相関して増加することが判った。これは, 高いTNのAFM転移には混成ギャップが必要であること, ギャップ内状態の発達によってギャップが埋まることを示唆した。更に重要な共通点は, V1とVAFが共存する領域でのみZBCがTNより高いT*で減少し始めることである。この結果は, CeOs2Al10ではAFM転移よりも高温からN(EF)が減少することを意味するが, その原因は不明であった。 そこで本年度は, このN(EF)減少の原因を電気伝導の異方性の観点から明確にするために, N(E=EF)のエネルギー変化に敏感である熱電能Sに着目し, 4f正孔ドープ系のSを測定し, 以前測定した5d正孔/電子ドープ系の結果と比較した。無置換系のSは, 混成ギャップが開く80 K以下で減少し, b軸方向のみ36 K(= TS)以下で減少する。このTSは, 三種類のドープで共通して低下するが, その値はZBCが減少し始める温度T*とよく一致した。この結果から, N(EF)の減少する原因は, 混成ギャップの開いた状態で, 転移温度より高温から準粒子伝導がb軸方向で変化するためであることが判った。
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