研究課題/領域番号 |
15J01024
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
文化人類学・民俗学
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 美和 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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研究課題ステータス |
採択後辞退 (2017年度)
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配分額 *注記 |
2,800千円 (直接経費: 2,800千円)
2017年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2016年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2015年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | コソボ紛争 / アルバニア系移民 / コソボ / カヌン |
研究実績の概要 |
今年度は、コソボ紛争を経験したイタリアおよびドイツに居住するアルバニア系移民に関して実地調査を行った。 イタリアには、近接するバルカン半島各地から来た、歴史的経験の多様なアルバニア系移民が居住している。移民のうち、紛争後にコソボを脱出してきた人々は、独自の集会を開催していることがわかった。とくに注目すべき点は、毎年3・4月に紛争犠牲者を弔う式典が開催されていたことである。調査時、夫がコソボ紛争において殺害された寡婦に面談することができた。面談により、20年経過しても未だ直接経験に基づく紛争の記憶が鮮明に維持され、紛争犠牲者としての自己認識を表明していることが明らかになった。紛争を想起する集会においては、悲惨な経験に関する集合的記憶の維持のみならず、心的外傷を緩和する効果をもつことが推察された。 ドイツでは、コソボ出身のアルバニア系夫婦に聞き取り調査を行った。コソボ調査時には未婚であったインフォーマントの20代女性は、結婚後にドイツに移住してきた。現在、夫の父系親族が近隣に居住し、頻繁に相互訪問を行っている。妻の20代女性は、ドイツ語のコミュニケーションに苦労を感じながらも、移住地の生活に満足していると語っていた。興味深い点は、人々がイスラームの活動をさほど熱心に行っていなかったことである。これは、家族が移住前のコソボにおいても都市近郊に居住し、経済的にも比較的恵まれた階層にあり、イスラーム信仰が比較的緩やかだったことが一因と考えられる。また、ドイツにおけるイスラーム系移民に対する、キリスト教主流社会との日常的な接触、メディアで報じられる反移民活動により、イスラーム教徒であることをあえて明示しない可能性もある。今後、聞き取り調査資料の詳細な分析が必要であるが、少なくとも当該家族に限定してみるならば、イスラームの戒律に拘束されない生活を自主的に選択しているように見受けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度、トルコやヨーロッパ地域における、いわゆるテロの頻発により、図らずも調査活動は制約を受けた。調査対象であるコソボのアルバニア系住民は、多くが敬虔なイスラーム教徒である。かつて滞在していた村落部住民のなかには、明言は避けるものの、イスラーム過激派への心的距離が近いと推察される人々がいた。こうした状況下、外務省の注意喚起情報等を鑑みて、コソボやトルコにおける長期調査は困難であると判断した。そのため、不穏な事件は起こってきたものの、比較的安全と考えられたイタリアおよびドイツにおいて、コソボ出身アルバニア系移民に関する短期間のフィールドワークを行った。 紛争の地であるコソボに居住していれば、戦いが行われ、自ら逃亡してきた土地の具体的地形、犠牲者の集合墓地、破壊された建築物や壁の弾痕、敵対していた他者との接触が、現在でも日常的に人々の感覚に働きかけ、想起が繰り返される。しかし、イタリアやドイツにおける移民としての生活は、否が応でも紛争の忘却を強いることになる。「紛争の記憶」は、トラウマ的苦悩を喚起するのみならず、人々の自己認識や亡き家族の想起に直結する。人々にとって苦悩からの解放とともに、忘却に抗う儀礼的実践も重要であると考察できた点は本研究において大きな発見だった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、治安に不安のある西欧で調査を行い、紛争経験者の興味深い対照的な事例を収集したことは、大きな進展であった一方、研究成果の公表が年度内に十分になされなかった点が不十分であった。また、近年のコソボ・トルコ近隣での治安状況を鑑みて、研究活動を一時休止し、平成29年4月から、国家公務員総合職として法務省で働き始める決断をした。今後、研究活動に復帰した際には、当該年度に収集した民族誌的事例をコソボ紛争を包括的に考察する着眼点の一つとして、研究を進めていきたい。
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