2016年、LHC-ATLASは約32/fbのデータを取得した。本研究課題では、その内10/fbと前年に取得した約3/fbのデータを用いて、2016年夏の国際会議であるICHEPで公表した。公表結果には、本研究課題で開発した手法を用いた。その結果、重いヒッグス粒子が予測される領域について、従来の方法に比べて約50%の探索感度改善に成功した。残念ながら観測データに新粒子の兆候は見られなかったが、その時点で世界で最も厳しい制限を与えた。また全データの解析が進行中であり、現在は最終チェックを実験グループ内で行っており、夏の国際会議までに論文として公表できると考えている。
本研究課題の鍵であった重いヒッグス粒子の信号は、比較的消失横運動量が大きい。これを利用した。ATLAS実験のバレルミューオントリガーの検出効率は60-70%と低く、重いヒッグス粒子の探索感度を下げていた理由であった。そこで、大きな消失横運動量に注目したトリガーを初めて利用し、特に重い領域に特化した信号領域を新たに導入した。その結果従来に比べて50%程度改善し解析結果に大きなインパクトを与えた。
またもう一つの鍵である背景事象、本来タウ粒子ではないものを間違えて再構成してしまうフェイク事象の見積もりに関して、従来の手法を改良した独自の手法を考案した。その結果、解析結果に対して最も大きな影響を与えていた系統誤差を、約30%減らすことに成功した。この方法はタウ粒子がいない事象に対しても有効であり、他の解析にも影響を与えるものと考える。
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