第2年度目は「山手樹一郎を中心とした時代小説研究」を全体的に進展させることが出来たと考える。 大きな柱である、山手樹一郎に関する基礎的情報の調査は引き続き順調に進展している。かつて絶大な人気と読者数を誇った山手にはその年譜がなかった。それを製作し平成25年より発表を続けているが、平成28年も『「新・山手樹一郎著作年譜」補遺Ⅱ』(『立教大学大学院日本文学論叢』平成28年9月、立教大学大学院文学研究科日本文学専攻)を発表するに至った。本年譜はこれまで知られていなかったが、今回の調査で発見に至った山手の随筆を数多く加えたものである。文学研究、特にこれまで軽視されてきた大衆文学研究においてこういった基礎的研究の推進は非常に重要なことであり、理系の研究のように文系の研究でも確かな資料に基づいた研究を目指すという観点にも合致するものと考えている。現在でも著作年譜の補遺Ⅲを製作中であり、高い精度での完成の見通しが立ってきたのが現状である。 また時代小説全体に関しての研究も進んでいる。日本文学協会『日本文学』に投稿し、審査待ちの「昭和一〇年代・山手樹一郎の尊王攘夷ものをめぐって―並走する徳富蘇峰『近世日本国民史』―」もその一環である。戦中における歴史・時代小説ブームに着目し、そのブームのなかでの山手の立ち位置と、同時代のベストセラーだった蘇峰『近世日本国民史』との関係性を論じた内容である。 さらに広い意味での大衆文学研究の一環として、立教大学日本文学会大会において「大正中期における菊地寛の受容―戯曲(化)という経路―」(口頭発表、2016年7月2日、立教大学池袋キャンパス)を行なった。三人社から発刊予定である『「よみうり抄」翻刻』もその一環である。 博士論文の完成という一つの目標には到達できなかったが、確かな資料に基づく実証的な研究という眼目からは外れず着実に進展していると考えている。
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