採用最終年度となる本年度は、研究対象とする「XがYくなる」形式の変化表現に加えて、これに関連する言語表現として「XがYになる」の形式による変化表現にも視野を広げながら、《名詞句[X](ガ)+連用形形容詞[Y]+動詞「ナル」+アスペクト》という要素から成る日本語の変化表現を構文としての単位で捉え、その意味と用法の広がりについて考察を行った。考察にあたっては、対象とする言語表現の豊富な事例を提示し、各用法の表現の言語的ふるまいについて整理を行ったうえで、それぞれの用法の意味的関連性について、認知的観点から説明づけを試みた。結論として、問題とする日本語の変化表現の複数の用法は、外界に対する人間の「捉え方」の共通性に結ばれる、多義的な関係にあるものという見方を示した。 このように、本研究は、日本語話者にとっては“あたりまえ”のものといえる日常的な言語表現の様々な用法の言語的特徴について記述的観点から見通しを深めたうえで、その意味の広がりに関する興味深い側面に新たな光を当てたものと思われる。一見すると何の変哲もない“ふつうのことば”としての変化表現が示す用法の広がりに人間の世界の捉え方が反映されること、また、そうした世界の捉え方の実態について認知言語学的観点から統一的な説明を与えた点において、本研究の意義が主張される。 さらに、本研究から得られた成果により、今後は異なる言語間での対照研究への取り組みが展望される。本研究テーマに深く関連するものとして考察を行った時空間概念の結びつきの問題などとも合わせ、さらに言語に対する見通しを深めるための研究課題を掘り起こした点に、本研究の重要性が認められるものと思われる。
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