研究実績の概要 |
今年度は, Donjek氷河において12年周期で発生している氷河サージ(流動速度が平時の数十倍にも上昇する現象)の論文がThe Cryosphere (TC)に出版された(Abe et al., 2016). 衛星データ解析については, ALOS-2の SARデータは流動速度変化を検出できる好条件のペアが多くなかったが, 本研究地域であるアラスカ・ユーコン地域の流動速度マップ(2014-2016)を作成することができた. ALOSのデータ(2006-2011)と比較し, 新たなサージが複数の氷河で開始していることが明らかになった(図1). これらの結果とSARが氷河流動速度検出に貢献してきた経緯を合わせて, 雪氷学会の学会誌「雪氷」の衛星観測特集号に解説論文として発表した (阿部・古屋, 2016). また, ALOS/PALSARとSentinel-1AのSARデータ及びLandsat-7と-8の光学センサ画像を用いて, 高時間分解能な流動速度変化の検出に成功した. Steele氷河で2011年頃より発生した氷河サージついて, 上記の流動速度データに加え, Terra/ASTERによる数値標高モデルからサージに伴う氷厚変化のデータを得ることができた. これらのデータをもとに, サージの発生メカニズムについて議論をまとめ, 論文を執筆中である. 昨年度に引き続き, 氷河水理水文モデルを用いた冬期底面環境の推定を行った. 昨年度の数値実験により, 冬期に融解水を流入させることで底面水圧を上げることが可能であった. 本年度は, 融解水の量ならびに流入期間を変えて調べたところ, いずれの場合もその変化が極めて短期的であり, 冬期の加速とは明らかに異なっていた. このことから, 冬期において少量の水で高い底面水圧を生成できる新たな物理過程が必要であると考えられる.
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