研究実績の概要 |
当該年度も、前年度までに発見した8つのカゴメ反強磁性体A2BM3F12(A, B:アルカリ金属、M:Ti, V, Cr)の物性解明を目的に研究を行った。 まず、S = 1/2で量子揺らぎが大きいTi系の三つの化合物における系統的な研究から以下のことが明らかになった。Ti系の化合物は45K程度の反強磁性的相互作用が支配的であるが、1.3Kまで磁気秩序を示さない。一方で、カゴメ格子の歪みが小さくなるにつれて、低温での磁化率の大きさと磁気異方性が小さくなる。これらの結果は、カゴメ格子の歪みの減少に応じて基底状態が変化することを示唆している。 M = V, Cr系の化合物については、新たに作成したより純良な単結晶試料を用いて精密な結晶構造解析と磁化測定を行ったところ以下のことが明らかになった。 V系ではいずれもイジング的磁気異方性が高温から存在し、低温で反強磁性秩序を形成することを前年度に明らかにした。一方、カゴメ格子の骨格の歪みと低温での磁化の異方性が対応しないことが問題になっていた。今回の構造解析の結果、Cs2KV3F12の結晶構造の対称性は他の二つよりも低いことが判明した。これにより、低温での磁化の異方性が、カゴメ格子の骨格の歪みが最も小さいCs2KV3F12よりもCs2NaV3F12の方が小さい理由を説明することができた。また、カゴメ格子のスピンフラストレーションとイジング的磁気異方性及び小さなカゴメ格子の歪みの協奏により、多彩な磁場誘起相が出現することを明らかにした。さらに、Cr系の二つの化合物では、いずれもCr3+イオンが少し歪んだカゴメ格子を形成するが、空間群が異なることが明らかになった。 これらの系統的研究から得られた成果は、カゴメ格子反強磁性体におけるスピンフラストレーション効果に対する統一的な理解につながる。
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