蛋白質は天然構造の形成とは異なる折り畳み(ミスフォールディング)によってアミロイド線維という線維状の異常凝集体を形成する。アミロイド線維はアルツハイマー病や、パーキンソン病など、アミロイド病と総称される30種類以上の疾患の原因となり、アミロイド病を分子レベルで理解するためにも線維形成の特性やメカニズムを解明することは重要な課題となっている。以前の研究では等温滴定型熱量計(ITC)が蛋白質のフォールディングとミスフォールディングの熱力学を包括的に明らかにする有望な手法であることを示した。この熱測定法を発展・応用させアミロイド線維形成の阻害や予防に繋がる知見を得ることを目的とした。アミロイド病の予防や治療において、構造情報に加え、得られた熱力学的パラメータから相互作用の実際を明らかにすることで将来的に合理的な薬物分子設計が可能となる。このような新規スクリーニング法としての熱量測定の確立を目指した。この手法の発展・応用のためにも、どのような溶液状態の変化がどのような反応熱パターンの変化を引き起こすのかを理解しておく必要がある。現在までに、インスリン、グルカゴンおよびアルツハイマー病の原因となるアミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集形成時の熱量をITCを用いて測定した。それぞれの蛋白質で特徴的な線維形成の熱測定に成功し、本手法の一般性を示した(年次計画1)。さらにAβペプチドにおいて線維形成阻害の効果があると報告されている添加物を加え、反応熱のパターンの変化とそれぞれの熱力学的特徴を定量的に観測し、アミロイド線維形成を阻害する分子のスクリーニングへの応用の可能性を示した(年次計画3)。
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