本研究の目的は,大きくは,環境変化のような危機下の対応として産地(産業集積)が展開する自己革新の実現と成功の背後にあるメカニズムを明らかにすることにあった。とりわけ,成功を収めた革新産地と衰退産地を分かつ重要な論点と見込んだのは,①内部の合意形成プロセスとその阻害メカニズム,②産地内の革新プロセスと産地外における市場競争力形成プロセスとの接合,という2点であった。この論点に係る考察を深化させることを目指し,ミカン産地の経営史的な事例分析を基礎とした。それに向けて1年目である平成27年度には,第1に,詳細な事例研究が中核的な位置を占めることから,データ面の充実をいち早く進めること,第2に,主に三ヶ日と宇和地域を比較検討し,上記論点①に対応する産地内部のプロセスを解明すること,第3に,2年目に向けた予備作業として,論点②の検討材料とすべく三ヶ日と松山地域の比較検討を開始することを計画していた。 第1のデータ面の充実については,当初計画していた通り各産地の月刊機関誌の収集を行うことができた。6種類にわたる機関誌をそれぞれ約30年間分閲覧し,必要な文献を収集することができ,研究基盤が形成された。第2の三ヶ日と宇和地域の比較検討に関連する研究として,2産地の比較研究を行った論文が査読付きで学会誌に掲載され,第3の三ヶ日と松山地域の比較検討に関連する研究として,松山地域についての展開を解明した論文が査読付きで既に学会誌への掲載が決定されている。さらに,事例産地に係るより総合的な成果として,博士論文では,危機に直面した3産地それぞれについて分析し,その成否を比較検討した。 このように,平成27年度は主に実証面では計画をやや先んじて3産地の分析を終えることができた。その一方で,理論面でのジャーナルへの投稿には至らなかった。この点については,次年度以降に取り組んでいくことになる。
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