本研究は、古代語において人の発言・思惟の内容となる語句を引用する「~と」という成分の持つ文法的な性格を明らかにすることを目的としている。27年度の研究実績は、主に次の2点である。 (1)「~を~と思ふ」のように、ヲ格成分が生起するタイプの構文(認識動詞構文)が持つ、現代語と異なる文法的性格について考察した。現代語では「~を~だと思う」のように断定の助動詞「だ」が生起するが、古代語ではそれに相当する現象(「なり」の生起する「~を~なりと思ふ」)が見られない。この点に着目し、現代語において「だ」の生起がどのような意味の表し分けを担うかを考察した上で、古代語の認識動詞構文はそうした表し分けの無い未分化な性質を持つことを明らかにした。 (2)助詞「と」を語構成に持つ助詞トテのうち、主節主体の動きを表す動詞終止形に接続するものが持つ、引用とは異なる意味・機能について考察した。「~と言ふ/思ふ」のように発言・思惟を引用する形式の場合、後続する主節の主体の動きを表す動詞終止形を受ける例は稀であるが、トテの場合はそうした例がしばしば見出される。用例の調査と分析を行い、このようなトテを用いる文は、主体の発言・思惟の内容を引用するのではなく、前件で主体が何らかの動作の実現に自ら向かっていることを大まかに示し、後件で前件動作に向かう中で主体が引き起こす事態を詳細に述べる、という構造を持つことを明らかにした。 (1)については『日本語学論集』12号に掲載され、(2)については『日本語の研究』12巻2号に掲載されることになった。
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