本研究は,現生・化石ワニ類の頭骨の長吻化パターンを見ることで,ミクロ(個体発生)・マクロ(系統発生)スケールでワニ類の食性の適応史を解明し,数千万年にわたるワニ類の成功の理由に迫ることを目的とする. 平成28年度は,群馬県立自然史博物館,中国科学院古脊椎動物古人類研究所(中国・北京),ノーザンテリトリー美術博物館(オーストラリア・ノーザンテリトリー州),クイーンズランド博物館(オーストラリア・クイーンズランド州),モンゴル科学アカデミー古生物研究センター(モンゴル・ウランバートル)にて,現生・化石ワニ類を対象とする調査を行った. 研究成果としては,大分県津房川の鮮新統から産出したワニ化石を再記載し国際誌に公表した.この化石は世界最古の揚子江ワニと同定され,そのサイズも現生種の最大体長に匹敵する大きさであった.日本列島のテクトニクス史や化石産出層の古気温推定と絡めて,アリゲーター属ワニの生物地理や局所的絶滅の理由に言及した. また,ワニ類の採餌エコモルフォロジーの妥当性を評価し,その成長軌道を比較した研究を国際誌に発表した.上顎の歯サイズのばらつきや咬合筋付着部の大きさなどの複数の形質が吻部形態と相関していることを示し,形態データを用いた系統解析の際の形質選択の基準を提示した.当該研究は,2017年初頭の日本古生物学会にて口頭発表を行った.この他にも,採用期間中に調査を行った内容を順次論文公表していく予定である.
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