平成28年度は (1) 遺産が子の労働供給に与える影響の分析、(2)構造推定での推定手法の開発、の2つを行った。 中高齢者の労働供給を考える際に、保有する資産額を考慮にいれる必要がある。そこで(1)では、中高齢者の労働供給の資産弾力性を見るために、遺産が子の労働供給に与える影響を分析した。「くらしと健康の調査」には将来遺産がもらえるかどうかを各期の調査で聞いており、各期に遺産がもらえたかどうかについて、もらえた場合にはその額も調査している。調査の初めに遺産を貰える確率が低いと予想していたにも関わらず、調査期間中に遺産を貰えた場合、これは子にとって外生変動であると考えられる。分析の結果、遺産をもらえたかどうか自体は子の労働供給に影響を与えなかったが、遺産受給時の年齢と実際にもらえた遺産額が多くなると引退に影響を与えることが分かった。この研究は、『国民経済雑誌』に投稿し、掲載された。 (2)では、構造推定の手法を用いて介護保険制度が子の労働供給に与える影響を分析するために、推定手法の開発を行った。特に、消費、資産蓄積、労働供給を考慮にいれたライフサイクルモデルの構造推定に焦点を当てた。近年では、Endogenous gridpoint methodという手法がライフサイクルモデルを高速に解くために開発されている。この手法を様々な状況に拡張し用いることで、モデルを解く時間を削減し、先行研究では推定が難しかったライフサイクルモデルの下でのセレクションを考慮に入れた推定を行うことが可能になった。今後、ライフサイクルモデルを数値計算で解く際のEndogenous gridpoint methodの近似誤差が構造推定で得られた推定量にどのように影響するかを分析する。
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