研究実績の概要 |
報告者が研究を行っている国立がん研究センター研究所ゲノム生物学分野では、肺がんを対象に高速シークエンサーを用いたゲノム網羅的解析により、新規変異遺伝子の同定を行ってきた。悪性度の高い肺腺がんである浸潤性粘液腺がんにおいて、報告者らは、5-15%にNRG1遺伝子の融合がKRAS変異とは相互排他的に存在することを見出した(T. Nakaoku, et al. Clin Cancer Res. 2014)。 ヒト肺がん培養細胞NCI-H322、ヒト乳がん培養細胞BT20、正常肺上皮細胞SAECsを用いて、CD74-NRG1融合タンパク質を恒常的に発現する細胞株を樹立した。CD74-NRG1融合タンパク質を恒常的に発現するがん細胞株では、スフェア形成能の有意な上昇が確認でき、幹細胞マーカーの発現も認められた。融合タンパク質を発現するH322を限界希釈法にてヌード・マウス皮下に移植し、腫瘍形成能を調べたところ、低い細胞数であってもNRG1融合遺伝子を発現させた細胞において有意に腫瘍形成が認められた。細胞内のシグナル伝達経路の解析により、NRG1がHER2/HER3を活性させ、PI3K/ALK/NF-κBシグナルを介してIGF2の産生を亢進させ、活性化された受容体IGF1Rは更なるNF-κB経路の活性につながり、シグナル回路を形成することによりもたらされることを明らかにした。実際に、ERBB2、PI3K、NF-κB、IGF2の阻害剤を用いることで、その幹細胞様形質は抑制される。こうしたNRG1の恒常的なシグナルが、がん細胞の幹細胞様形質を増強することを明らかにし、研究論文として報告することができた(T Murayama, T Nakaoku, et al. co-first author. Cancer Res. 2016)。
|