研究実績の概要 |
前年度までに開発したガドリニウム錯体の光増感を指向した物性探索を行った。その結果、フェニル基を発光部位とするガドリニウム錯体が、通常観測困難な「空気下・室温」で燐光を示すことを見出した。X線結晶構造解析を行った結果、励起三重項状態の失活の原因となるπ-π相互作用を巧みに回避しうるパッキングになっていることがわかった。また、アルゴン雰囲気下と空気下において、結晶の発光量子収率はほとんど変化しない。つまり、結晶化することで励起三重項状態の酸素による消光が制御できていることがわかった。さらに興味深いことに、1-ナフトールをドープすることで発光色を青色から薄緑色へ制御可能であり、発光量子収率は約3倍になることを見出した。発光寿命等の測定により、フェニル基を発光部位とするガドリニウム錯体の結晶をプラットフォームとして、1-ナフトールの燐光が光増感されていることを明らかにした。これらの成果は、平成28年5月に学術論文として発表した(Dalton Trans. 2016, 45, 11620.)。さらに、ガドリニウム錯体の配位子内遷移のみに強く依存した励起三重項状態を詳細かつ系統的に検討し、酸素に応答する発光性テルビウム錯体やジスプロシウム錯体の酸素応答メカニズムに関する重要な知見を得た(Dalton Trans. 2016, 45, 9492.; Inorg. Chem. 2016, 55, 6609.)。平成28年11月から平成29年3月までの間、カリフォルニア大学アーバイン校にて研究活動を行い、蛍光顕微鏡を用いて極微量の中間体を観測し、従来ではブラックボックスになっていた反応メカニズムを解明する革新的な実験技術を習得し第一著者として学術論文を発表した(ACS Catl. 2017, 7, 3786.)。
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