研究実績の概要 |
ダイオキシンの妊娠期曝露による出生児発育障害は、低用量の曝露で生起し、子供の一生の健康を脅かすため深刻な問題である。我々は昨年までに、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 母体曝露により、胎児の脳下垂体において成長ホルモン (GH) の合成が顕著に低下すること、並びにそれが上記障害の一端を担うことを見出している。そこで本研究では、GH 発現低下を規定しうるダイオキシンの標的因子を探索した。 ダイオキシンの標的因子を探索するため、胎児脳下垂体を用いて DNA マイクロアレイ解析を行った。TCDD による変動の傾向が GH と類似した遺伝子を抽出し、胎生期の変動状況を解析した。その結果、機能がほとんど理解されていない遺伝子である Death associated protein-like 1 (DAPL1) の発現のみが、GH 低下が出現する胎生 18 日目より TCDD 依存的に低下する事実が判明した。また、ダイオキシンによる毒性発現において重要な役割を担う芳香族炭化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor: AHR) 欠損ラットを用いた解析により、GH および DAPL1 発現低下は AHR 依存的に生じることも確認された。 そこで、DAPL1 発現低下の毒性学的意義を検討するため、胎児脳下垂体より調製した初代培養細胞に DAPL1 siRNA を導入し、GH 発現に対する影響を検討した。その結果、DAPL1 発現低下により GH 発現も抑制されることが明らかとなった。以上の成果から、TCDD は胎児脳下垂体において DAPL1 発現抑制を標的として GH 発現を低下させ、発育障害を惹起するとの新規毒性機構が見出された。
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