昨年度申請者は細胞培養系においてコラーゲン・クロスリンクの変化が骨芽細胞、破骨細胞、骨髄由来間質細胞に及ぼす影響について解析し、クロスリンクの低下したマトリックス上に播種した各細胞の増殖能・分化能は上昇することを明らかにした。動物実験に関しては、4週齢のC57BL/6JマウスをBAPN含有飼料またはコントロール飼料にて8週間飼育して得たクロスリンク形成不全マウスに関して、通常飼料に戻して4週後の大腿骨において、BAPN摂取群における骨芽細胞の活性は有意に上昇したが、破骨細胞の活性に変化は認められなかったことを報告した。本年度はクロスリンク形成不全マウスより全血を採取して血清骨代謝マーカーの解析を行った。BAPN摂取群において、骨形成マーカーであるP1NPは8週に、Osteocalcinは4週において増加が認められた。そこで、マイクロCTを用いた骨形態計測解析において増加が見られた骨組織体積および血清中骨形成マーカーに関して、Pearsonの相関係数について解析を行ったところ、4週のBAPN高摂取群において、両変数間に高い正の相関がみられ、クロスリンクの変化により骨芽細胞の挙動が影響を受ける可能性が示唆された。 本研究結果よりコラーゲン・クロスリンクは骨の機械的特性を維持する構造としてのみならず、骨芽細胞、破骨細胞、骨髄由来間質細胞の分化に影響を及ぼすことにより、局所的な骨代謝に影響を及ぼす可能性が示唆された。これらを制御するメカニズムとしては、細胞外マトリックスの弾性率が細胞の分化制御に関わるとの報告もあることから、クロスリンクの低下による基質の弾性率変化が細胞挙動に影響を及ぼしている可能性も考えられるが、引き続き受容体などの分子メカニズムに関する解析が必要である。
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