研究実績の概要 |
ウイルス複製に伴う時間遅れを考慮した微分方程式を数学的に調べる事で、力学系が示す過渡状態の振る舞いを理解し、ウイルス感染初期の時系列データを定量的に解析する理論研究を行った。 SHIVはCD4T細胞と呼ばれる免疫応答を司る重要な細胞を標的とする。SHIV感染個体では、感染初期にこの標的細胞の大部分が破壊される事が原因となり、ウイルスを排除する免疫応答を誘導出来なくなり死亡する。しかし、例えば、抗ウイルス薬等を用いて感染初期のウイルス増殖の一部を阻害出来れば、標的細胞の枯渇が防がれ、免疫応答により比較的少ないウイルス量を維持する事になる。本課題では、免疫応答を記述する式B’(t)=f(T(t),V(t))B(t)-εB(t)をウイルス感染の力学系と組み合わせ、免疫応答誘導のメカニズムを明らかにする。特に、免疫応答はCD4T細胞数とSHIV量に依存して決まる事に注意し、生物学的に妥当な非線形関数f(T(t),V(t))を決定する。また、昨年度の研究結果で定量化した感染初期のウイルス増殖率を利用する事で、免疫応答誘導のためには感染初期に何%ウイルス増殖を阻害する必要があるか等、ワクチン開発や治療戦略に直結する具体的な成果を目指した。
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