今年度、本研究において、自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)者のユーモア体験に関する特徴として、以下の点を明らかにし、その成果を公表した。 具体的には、ASD者のユーモア体験の強度を増幅させる認知処理の特徴について、典型発達(以下、TD)者との比較から明らかにした。これまでTD者を対象とした先行研究において、ユーモア体験の強度を増幅させる処理としては、ユーモア体験を喚起させる事象の原因を推測する処理(分かりやすさの認知)と、ユーモア体験を喚起させる事象と関連した事柄を連想する処理(刺激の精緻化)の2つがあることが明らかになっている。具体的には、ユーモア体験を喚起させる事象の原因が十分に推測でき,その事象に関連する事柄を十分に連想することができる場合,ユーモア体験の強度が増幅される。また,この2つの処理は,ユーモア体験を喚起させる事象の原因となる手がかり情報に基づいて行われることも明らかになっている。本研究では、ASD者においても上述の認知処理が行われるかどうかについて検討した。その結果、主に以下の2点が認められた。1)TD者は手がかり有り条件において刺激を分かりやすく認知し,刺激の精緻化を多く行い,強いユーモア体験をする一方で,ASD者は手がかり情報についての条件間で差が見られなかった。2)TD者において,分かりやすさの認知と刺激の精緻化がユーモア体験の強さに影響を与える一方で,ASD者において刺激の精緻化のみがユーモア体験の強さに影響を与えていた。この結果から,ユーモア体験の強度を増幅させる処理の内実がASD者とTD者とで異なることが明らかになった。この成果は発達心理学研究第26巻第2号(査読有り)に掲載された。
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