研究実績の概要 |
我々の研究グループはこれまでに、ビタミンE同族体であるトコトリエノール(T3)の抗がん活性に注目し、T3の生体利用性を高めるべく、新規T3コハク酸誘導体(T3E)を合成した。近年死亡者数が増加している悪性中皮腫に対して、以前より、培養細胞を用いたin vitro評価系におけるT3Eの抗中皮腫作用の評価及びその作用機序の解析を進め、主な作用メカニズムを明らかにし報告してきた(Sato A et al, 2016)。in vivoにおけるT3Eの有用性に関しては、昨年度の研究成果として、マウスへの経口投与によりT3EがT3の約2倍の24 h AUCを示すことを明らかにしている。しかし、T3E投与による抗腫瘍効果ついては分かっていない。よって当該年度では、マウス中皮腫移植モデルを作製してT3Eの抗腫瘍作用を評価することにより、T3Eの新規中皮腫治療成分としての有用性を明らかにすることを目的とする。 方法として、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞H2052を免疫不全マウス(BALB/c-nu)背部へ皮下注入し、生着を確認後、1日おきに10日間T3Eを150 mg/kg経口投与して経時的に腫瘍体積、体重を計測し、エンドポイントで腫瘍重量を測定した。結果、T3Eの経口投与により腫瘍体積の減少および腫瘍重量の減少傾向がみられた。よって、T3Eはin vivo試験においても抗腫瘍活性を示すものと思われる。また、今回の投与条件では体重を指標としたT3E投与による副作用はみられなかった。本研究結果より、まだ解決すべき課題は残っているものの、T3Eは新規中皮腫治療成分の一つとして期待できると考えられる。本研究により、機能性成分の抗がん活性を生かした新たながん予防・治療への応用に向けた一つの手法が明らかにできたといえる。
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