H27年度は、ナノ電極による検体識別の原理実証として、1分子レベルでのタンパク質の識別を行なった。弾性基板上の金属細線の機械的破断を行うことでナノギャップ電極として機能させる機械的破断接合法と、代表者により考案された絶縁被覆ナノ電極を組み合わせ、分子検出時におけるバックグラウンドイオン電流を1/10以下に抑制した状態で測定を行った。電子伝達タンパク質としてよく知られるシトクロムcおよび高い構造的アスペクト比を持ち、モデルタンパク質として広く使用されるウシ血清アルブミンを試料として、電流計測による1分子検出を実施した。 電極間距離を一定に保ったときの両者のコンダクタンスヒストグラムには明確な違いが確認された。1分子が検出されたと考えられるが、同時に複数のピークが観察されており、複数の分子と異なる電極-分子の接合状態の寄与が考えられる。特にシトクロムcでは、特定のピークでは整数倍の関係が確認され、複数の検体による寄与が考えられるが、具体的な接合状態までの評価は本測定系ではまだ課題があると考えられ、検体を捕捉した状態での分析の必要性が示唆された。 また、ナノポア構造をナノウェル構造へと発展させ、ナノウェル構造を申請者の考案した絶縁被覆ナノ電極と組み合わせることで、新規デバイスを開発した。各電極部分における高精度微細加工に加え、ポリイミドと二酸化ケイ素の積層と掘削を適切に行うことにより、トラップ電極、センシング電極、ウェル構造を備えた複合デバイスの作製に成功した。ナノ電極単体でのタンパク質測定が可能であることは上記測定により実証されている。加えてこの機構により、電気泳動的に検体をナノウェルで捕捉した状態で、横方向の絶縁被覆ナノ電極による単一生体分子測定が可能であると考えられる。
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