研究実績の概要 |
今年度の研究計画として、「少なくとも一方の部分群を極大コンパクト部分群とした場合を扱ったFlensted-Jensen, コンパクトリー群の場合を扱ったHoogenboom, 一般的な場合を扱った松木敏彦の三氏による、対称部分群に対する一般化カルタン分解を与えた仕事に立脚し、対称空間ではないような球等質空間上に可視的作用を構成すること」を挙げたが、実際には一般の場合に対する答えを得ることができた。即ち、一般の複素球多様体に対し、コンパクト実形の作用が可視的になることを示した。この成果については、東京大学大学院数理科学研究科において開かれているリー群論・表現論セミナーで発表させて頂いた。複素球多様体が等質かつアファインである場合の例外的な2つのケースについて、笹木集夢氏による可視的作用に関する先行結果を用いる点は、申請書に書いた研究計画の通りであった。当初の期待よりも強い結果を得られた理由は、可視的作用の誘導法を一般化できたことによる。この手法の雛形は、「複素多様体に対する可視的な作用の理論」を導入した小林俊行氏自身の手によって、A型の冪零軌道に対する作用の可視性を扱う中で既に紹介されている。この結果は最近になって笹木氏により全ての型の冪零軌道へと一般化された。これらの先行結果を踏まえ、私は完全に一般の設定において可視的作用の誘導法が有効に働くことを示すことができた。続く自然な問題として非コンパクト実形の場合が考えられるが、これについては今後の課題である。
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