本年度はまず、量子情報理論における重要な問題のひとつである位相推定問題を量子力学的干渉性(複数の量子状態の重ね合わせ状態が保持する重ね合わせの程度)の観点から考察した。具体的には、静磁場中の量子系へ測定を行い、測定結果から静磁場の強度を推定する問題を考えた。そして、量子力学的干渉性は量子状態と物理量の関係を記述する概念であるため、静磁場の印加を記述するハミルトニアンに関する量子力学的干渉性と静磁場の強度推定精度との関係を考察した。そして、次の結論を得た。 量子力学的干渉性の尺度としてコヒーレンスの濃縮レートを採用し、静磁場の推定精度の尺度として量子フィッシャー情報量を採用した場合、コヒーレンスの濃縮レートは一定であるが、量子フィッシャー情報量は全く異なる量子状態の族を構成することができる。したがって、量子力学的干渉性と静磁場の推定精度の間には定量的な関係はない。そして、静磁場の印加によって生じる量子系のダイナミクスが量子状態を激しく変化させる条件を解明することが静磁場の強度推定問題にとって重要である。 次に、群作用による量子状態変化について理解を深めることが重要であると考え、量子状態の対称性の識別問題という問題を定式化した。量子状態空間上の群作用が与えられたとき、群作用から量子状態空間に同値関係が定義される。そして、この同値関係による状態空間の商集合の点を分離する量子測定を求める問題が量子状態の対称性の識別問題である。そしてこの問題に関して次の結果を得た。 ユニタリ群が量子状態空間に作用する場合、前年度に導出したエントロピー関数が推定可能な量子測定は対称性の識別問題の解である。そして、この解を用いることで、ユニタリ群の作用よって定まる量子状態空間の商集合上に操作的な距離関数を定義することが可能である。
|