本年度研究者は、昨年の研究成果を踏まえ、「レヴィナスのユートピア論の形而上学的・具体的側面の考察」という課題を立てた。成果は以下の二つに分かれる。 1.レヴィナスとエルンスト・ブロッホとの近接性の指摘 レヴィナスは1976年以降、エルンスト・ブロッホを取りあげて肯定的に論じるようになる。多くの著作仏訳や二次文献が出版され、70年代にフランスにおいてブロッホ復興とも言える状況が生まれていたこともあるが、レヴィナス自身がブロッホとの内在的な近接性を読み取ったのである(cf. J.-F. Ray)。近接性は多岐にわたるが、本研究は存在論に対する倫理の乗り越えの様相を明らかにするために、特に人間学的に解釈された時間論と、それを前提とする具体的ユートピア論の二点を指摘した。 2.レヴィナスの制度論の意義の確認 前述のようにレヴィナスは倫理は存在論を乗り越えると主張するが、この前提として存在論もまた倫理に常に必然的である(cf. R.Moati)。本研究によれば、このような理路をレヴィナスの責任と制度の関係にも見出すことができる。レヴィナスは存在論における主体の有限性を乗り越えるという意味で倫理的責任は無限であると主張するものの、制度においては責任を制限することで「自己を気遣うこと」の可能性を主張している。制度における主体性は、その制度において規定される限りで責任を負うことによってその制度からの逸脱をあらかじめ制限されているのである。倫理に対して存在論が必然的であるように、レヴィナスにおいて制度は責任に対して必然的であった。
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