3年度にわたる本研究は、中国後漢時代の青銅鏡の図像解釈を通して、国家が標榜した儒教の理念と民間レベルにおけるその理解内容との齟齬を、具体的に実証しようとするものである。 採用最終年度にあたる平成29年度は、第一にこれまでの2年度に実施してきた作品調査の成果を学術論文として発表することに重点を置いた。 2016年6月に学会発表した内容をもとに、「漢代の立体人物像にみる具象と抽象―中国における仏像制作の前史として」と題した学術論文を発表した(2017年5月)。その中では、儒教においては、崇祠する対象を目に見えるかたちで造形化する際にいかなる方法がとられてきたのか、そしてそれは、仏教伝来以後、どのように変化していったのか、この点について従来説を見直し、新たな見解を提示することができた。 続いて、「六漢老人―狩谷エキ斎が見据えた漢」と題する論文(2017年11月)では、江戸時代の漢学者や国学者たちが、入手した中国の後漢鏡をどのように解釈し、自身の立場に拠ってどのように自説に引用していたのか、その様相を整理した。 さらに、「文王故事画像鏡(フリーア美術館所蔵)の図像解釈とその主題 ―後漢時代の儒教美術の一例としての位置づけ」(2018年3月)は、特別研究員PD採用以前から続けてきた一連の作品調査の集大成として位置づけるものである。これまで解釈が定まらなかった当該作品の主題に関して、図像研究と文献研究の双方の成果を用いて、ひとつの新見解を提示するに至った。 3年度にわたる本研究は、着実に学術的意義の少なくない成果を残すことができたものと考えたい。また、最終年度においても、中国のみならず、ロンドン大英博物館や台北故宮博物院で作品調査を実施した。その成果は、次年度以降のさらなる研究の基礎となるものであり、特別研究員PDの研究課題は、今後の研究へとさらに展開していくものと考えている。
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