研究課題/領域番号 |
15J06599
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
分析化学
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
草刈 将一 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2016年度)
|
配分額 *注記 |
1,900千円 (直接経費: 1,900千円)
2016年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2015年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
|
キーワード | 二次イオン質量分析 / 中性粒子イオン化法 / 高感度 / 化学イオン化 / 大気圧分析 / 固液界面分析 |
研究実績の概要 |
本研究は質量分析技術の最も大きな課題である検出感度の向上を目指した新しい二次中性粒子イオン化法(SNMS)開発を目的としている。これは一次プローブを固体試料に照射した際にスパッタリングされた中性粒子をイオン化し、感度を改善する方法である。一般的に知られているSNMSは高強度レーザーやRFプラズマを用いて高イオン化効率を実現しているが、過剰なエネルギーにより分子構造を破壊してしまう点が欠点となっている。そこで、本研究では中性粒子を低真空領域に導き、試薬ガスを用いたCI(化学イオン化)を用いてイオン化することにより、比較的低エネルギーで中性粒子をイオン化する。 今年度は陽子移動型質量分析計(PTR-MS)を参考にし、10 Pa程度でのCIが可能な中性粒子イオン化部の設計を行った。このイオン化部の構造は試薬ガスをプラズマによりイオン化するイオン源と、試薬ガスと中性粒子の衝突頻度を制御してイオン化効率を向上するドリフトチューブに分かれており、極めてシンプルである。このため、試薬ガスのガス種や流量および電場の操作によるイオン化効率の最適化が可能となる。現時点では水イオンを用いてエタノールなどの揮発性試料をppbレベルで検出することに成功した。今後はイオン源の改良によりpptレベル以上まで検出感度を向上し、実際にSNMSとして従来の二次イオン質量分析(SIMS)装置に組み込む。 さらに、今年度は最終的に中性粒子イオン化部と結合する高速重イオンを用いた SIMS装置の改良も行い、SIMSで初めての大気圧分析を実現した。これにより、固体試料だけでなく、揮発性の液体試料の分析にも成功した。この研究成果は高速重イオンを用いた大気圧分析が固液界面分析へ応用可能であることを示唆しており、今後は電極反応や生体内反応など固液界面特有の物理および化学現象の解明へ寄与することが大いに期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は本研究で最も重要である中性粒子イオン化部の設計を目標としていた。このイオン化部の設計において重要な点はどのようにイオン化効率を向上させるかであった。そこで、揮発性成分を高感度で検出可能であることで知られている陽子移動型質量分析計(PTR-MS)のイオン化手法を参考にすることで、低真空における効率的なイオン化を実現できた。これにより、エタノールなどの揮発性試料の分子イオンをppbレベルで検出することに成功している。また、PTR-MSは試薬ガスをプラズマによりイオン化するイオン源と中性粒子を試薬ガスとの衝突によりイオン化するドリフトチューブの二つの領域のみで構成されており極めてシンプルな構造となっている。このため、今後の実験結果を反映し装置を改良することが容易である。 加えて、今年度は最終的に中性粒子イオン化部と結合する高速重イオンを用いた二次イオン質量分析(SIMS)装置の改良を行い、大気圧条件におけるSIMS分析を始めて実現した。本研究では一次イオン入射部および質量分析部を高真空で維持した状態で大気圧分析を実現するための装置の改良を行った。これにより、従来のSIMSでは測定困難であった揮発性試料の測定が可能となり、実際に極めて蒸気圧の高い水を含んだ試料の測定を実現した。この研究成果から申請者はSIMS国際学会における口頭発表でRowland Hill Student Awardを受賞した。 以上の研究成果から申請者は研究課題の進捗状況が当初の計画以上に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はイオン源の改良によりpptレベル以上まで検出感度を向上し、実際にSNMSとして従来の二次イオン質量分析(SIMS)装置に組み込む。現在、イオン源にはHeガスと水蒸気の混合ガスを直流電圧が印加された平行平板間に輸送し、グロー放電を用いてイオン化している。今後はさらに高い電力を供給可能な電源への交換やプラズマの生成方法を誘導結合型プラズマなどイオン化効率の高いものへ変更することで検出感度のさらなる向上を目指す。また、現状では比較的分子量の小さい揮発性試料の分析しか行っていないため分子構造が崩壊しやすい高分子に関するイオン化効率の評価も必要となる。加えて、試薬ガスである水イオンは極性の高い高分子とのイオン化反応では、中性粒子に高い余剰エネルギーを寄与し、分子間結合を解離する恐れがある。そこで、水よりも低エネルギーなイオン化が可能なリチウムへのイオン種変更も考慮にいれ、中性粒子イオン化の実験を行う。最終的な目標は10%以上の中性粒子イオン化法開発である。高感度SNMS実現後は微量成分を多量に含む生体試料の分析や大気圧分析と組み合わせた高感度固液界面分析の実現へ向けた実験を行う。
|