研究員は昨年度、新規金属有機材料を合成している最中に、6つのピリジル基を有する芳香環のみからなる有機配位子Py6Mesが、アセトニトリル中で再結晶することで多孔性分子結晶Pyopenを与えることを見いだしている。その結晶構造解析結果から、本結晶は、C-H N結合を多孔性結晶構築に用いた初めての例であることが明らかになっている。 Pyopenの結晶性粉末を徐々に加熱し、同時に随時X線回折測定を行ったところ、200度という高温域においても、Pyopen粉末の回折パターンは単結晶構造から予想されるパターンと一致した。これはPyopenが200度という多孔性分子結晶としては極めて高い熱安定性を有することを意味する。C-H N結合の弱さを考えるとこの熱安定性は驚異的である。Pyopenを200度以上に加熱したところ、異なる結晶多形Pycloseへと相転移した。PycloseにおいてPy6MesはPyopen同様1次元のピラーを形作っているものの、そのピラーは傾むいており、ピラー間に存在していた隙間を埋め非多孔性構造となっていた。 Pycloseにおいて特筆すべき点として、Py6Mesを結びつけていたC-H N結合を含む全ての分子間相互作用が開裂していることが挙げられる。それにもかかわらず、Pycloseをアセトニトリル蒸気に晒したところ、その結晶は常温常圧という穏やかな条件下で固体状態を保ったまま元の多孔性構造を復元した。結合レベルで構造が崩壊した多孔性材料を自己修復させたのは本研究が初めてである。本系において形状記憶が達成できたのは、本結晶がC-H Nという弱い、しかし容易に再形成できる結合から構築されており、結合の再形成に必要な活性化エネルギーが室温でも賄えるほど小さかったためであると考えられる。
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