研究課題/領域番号 |
15J08781
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
応用微生物学
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
NGUYEN Thi My Trinh (2016) 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 特別研究員(DC1)
NGUYEN THI MY TRINH (2015) 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2017
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研究課題ステータス |
交付 (2016年度)
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配分額 *注記 |
1,900千円 (直接経費: 1,900千円)
2016年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2015年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 優先的翻訳 / バニリン / フルフラール / HMF / 酵母 / バイオエタノール / 翻訳抑制 / mRNA flux / 出芽酵母 / ADH7 |
研究実績の概要 |
木質・草本系バイオマスの糖化・前処理の際に副産物として生じるバニリンやフルフラール、HMF(5-ヒドロキシメチルフルフラール)は酵母の生育・発酵を阻害するバイオマス由来発酵阻害物質であり、第2世代バイオエタノールの効率的生産や製造コスト削減をはかる上で大きな障壁となっている。さらにこれらの発酵阻害物質は酵母の翻訳活性を強く阻害するため、大部分の遺伝子は転写が活性化されても翻訳産物レベルには反映されない。そのため、多コピーベクターで遺伝子を酵母細胞に導入しても、バイオマス加水分解産物溶液中では遺伝子が翻訳されないため、期待に沿う効果が得られないことも多い。一方で、ごく一部のmRNAは翻訳抑制下でも優先的に翻訳されることが知られている。そこで研究代表者らは、高濃度バニリンによる翻訳抑制下でも優先的に翻訳される遺伝子の同定に取り組んだ。昨年度は、ADH7が高濃度バニリンストレス下で優先的に翻訳されることを見出した(Nguyen et al., 2015)。今年度はNADH依存型のアルコール脱水素酵素をコードするBDH2のmRNAも高濃度バニリンストレス下で効率的に翻訳されることを新たに見出した。さらに、ADH7がバニリンとHMFによってしかその発現が誘導されないのに対し、BDH2の発現は、バニリンとHMFに加えフルフラールによっても誘導されることを確認した。また、ADH7とBDH2に加えて機能未知の遺伝子VIE1の発現が高濃度バニリンやHMF、フルフラールによって誘導されることを見出すとともに、VIE1の発現誘導効率はADH7やBDH2よりも優れていることを確認した。また、ADH7やBDH2、VIE1のプロモーターを用いてバイオマス由来発酵阻害物質存在下で他の遺伝子の発現を誘導することにも成功しており、ADH6の発現誘導などを通して各発酵阻害物質に対する耐性改善にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
翻訳活性を強く抑制するバイオマス由来発酵阻害物質バニリンの存在下で、優先的に翻訳される遺伝子VIE1およびBDH2を新たに同定し、学会発表および論文発表を行った。VIE1およびその他の遺伝子についても投稿準備中である。また、これまでに明らかにした遺伝子のプロモーター解析を通じて、翻訳抑制下での優先的翻訳において鍵となる認識配列の絞り込みにも成功しており、期待通りに順調な研究の進展を達成してくれた。さらに、昨年度報告した優先的に翻訳される遺伝子ADH7遺伝子およびVIE1、BDH2のフルフラールやHMFなどの他のバイオマス由来発酵阻害物質による発現誘導を検討した。その結果、ADH7遺伝子の発現のみフルフラールに応答しないものの、VIE1およびBDH2はバニリンだけでなくフルフラールとHMF応答してその発現が誘導されることを新たに確認した。これらの内容を基に、複数の発酵阻害物質存在下でのVIE1とBDH2の発現誘導にもパターンについて論文投稿の準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
優先的翻訳はmRNA上の塩基配列ではなく、プロモーター領域のDNA塩基配列(cis-element)およびそこに結合する転写因子(trans-element)が重要な役割を担うことが報告されている。実際にADH7やBDH2、VIE1のプロモーターを用いることで任意の遺伝子の発現を誘導することも可能である。グルコース飢餓条件下での優先的翻訳にはプロモーター領域内のheat shock element(HSE)が不可欠であることが報告されているが(Zid and O'Shea, 2014)、バニリンや発酵阻害物質存在下での優先的翻訳に必要とされるcis-elementは未だ見つかっていない。そこで今後は、ADH7やBDH2、VIE1のプロモーター中に共通するモチーフに中から優先的翻訳に必要とされるcis-elementの同定に取り組む。また、そこに結合する転写因子やRNA結合タンパク質の同定及び解析を通じて、優先的翻訳の分子機構の解明に取り組む。
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