本研究では、会社法における株主保護のあり方に関して、通常の資金調達の場面を業務執行として把握した上で、一般的・理論的な問題として、「株式保有構造が分散した上場会社における業務執行に対する監督のあり方」という観点から検討を行った。本研究の成果は、採用期間の初年度中に博士論文として取りまとめた。 より具体的には、アメリカとイギリスを対象とする比較法的検討を通して、非業務執行役員の責任法制とこれに対する救済法制のあり方を中心として、上場会社内部における経営に対する監督に関して日本法が抱える課題を明らかにした。アメリカとイギリスでは、モニタリング・モデルとして、取締役会の監督機能を確保するために、非業務執行役員の責任法制のあり方も同モデルと整合的な形で展開し、救済法制も整備された経緯を有する。また、非業務執行役員が責任を負い、個人の出捐につながる場面は両国ともほぼ皆無となっていることが本研究を通して確認できた。 これに対して日本法では、責任法制について、業務執行者と非業務執行役員とを区別する視点が全体として乏しく、非業務執行役員が賠償責任を負うことが両国よりも多い中で、救済法制は、責任の一部免除制度を除き、両国並みに整備されているわけではない。このような状況の中で、例えば、①上場会社における非業務執行役員の会社に対する義務という場面での「監視義務」概念の明確化が有益であること、②D&O保険の株主代表訴訟担保特約条項部分の保険料負担について会社負担のあり方を検討する余地があること、③立法論として、会社補償について明文の規定を設けることが有益であること、等を指摘した。
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