研究実績の概要 |
博士論文の主題を反映した本年度の研究目的は、行為規範たる国際人道法と裁判規範たる国際刑事法の間で実体規範が乖離することによる罪刑法定主義違反の可能性が、国際刑事裁判においていかに把握されてきたか検討すること、またそれを通じて両法体系の関係に関する理解を再構成することであった。博士論文の作成は現在も継続中であり、下記のような対象の拡大を除けば、この目的に現在でも変更はない。 研究実施計画の末尾に記載した通り、本年度はまず両法体系間の関係を直接扱った先行研究を調査し、また罪刑法定主義に関する単著レベルでの先行研究を調査した。その結果、本主題に関して先行研究で扱われている論点は、当初想定していたような、両法体系間における個人の義務に関する実体法の乖離という問題に限られてはおらず、各国際刑事法廷における適用法の問題や、新たな責任形態の創出といった問題にも及んでいることが判明した。こうした点を踏まえ、研究実施計画にて記述した手法を修正しつつ博士論文の構成案を新たに作成した上で、現在はそれに即して研究を遂行している段階である。 具体的には、①国際法における罪刑法定主義概念の歴史的変遷を把握した上で、②近年の国際刑事裁判において本主題との関係で生じている上記の諸問題を同概念の定義に照らしつつ評価する予定である。①については、罪刑法定主義違反が特に問題視されたニュルンベルク・東京裁判当時の同概念の理解を現在調査中である。②は、近年の各国際刑事法廷(ICTY/R, ICC, SCSLなど)について(a)適用法の問題、(b)管轄権の問題、(c)行為規範たる国際人道法からの乖離の問題、(d)責任形態の拡大の問題をそれぞれ検討する形でなされる。 このように多角的な視点から罪刑法定主義との関連で両法体系間の関係を論じた先行研究はほとんど存在せず、研究の完成時には両分野に対する一定の貢献を期待できる。
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