研究実績の概要 |
これまでの研究において、ヒトの運動意思決定特性を検討し、高得点と無得点が隣接する運動課題においては、失敗確率が増大し報酬期待値が低下してしまうにも関わらず高得点を狙うリスク追求的な方略を取ることを明らかにしてきた(Ota et al., Frontiers in Computational Neuroscience, 2015)。本年度においては、繰り返し練習をすることで、この傾向が改善され報酬期待値が最大となるリスク中立的な方略を獲得できるかを検討した。実験参加者は上記の運動課題を9日間継続して実施し、各ブロックにおいて期待報酬を最大化することを求められた。実験の結果、1日目にリスク追求的な方略を取る参加者は9日目にもリスク追求的な方略取り、1日目にリスク回避的方略を取る参加者は、9日目にも同様にリスク回避的方略を取ることが明らかになった。この結果は繰り返しの練習においても、リスクに関わる運動方略の学習は進行されにくいことを示唆している。本研究の成果は、Scientific Reports誌に掲載された。 次にリスク中立的な方略の学習が困難である原因として、毎回の運動結果を観察し自分の運動がどのくらいばらつくのかという運動誤差の認識が正確に行えないという仮説を検証した。実験にはペンタブレットを利用した腕の素早い伸展課題を用いた。各ブロック終了後に全試行の運動結果を実験参加者にフィードバックし、リスク中立的な方略が獲得できるかを検証ところ、運動誤差分布のフィードバックが与えられても、個人の好むリスク選択方略は維持される傾向が確認された。この結果は少なくても、運動誤差認識の不正確さだけが、運動方略の最適化を阻む要因ではない可能性を示唆している。
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