本研究では、太陽フレアの発生に関わる物理機構を理解し、その発生条件を明らかにすることを目的としている。このため、数値シミュレーションに基づくフレア発生モデルであるKB12モデル(Kusano & Bamba et al. 2012)に着目し、実際に太陽面上で発生した大規模フレアとの整合性を評価した。本年度遂行した解析は以下の通りである。 (1) ひので衛星・SDO衛星・IRIS衛星データを用いた、フレア前兆現象の詳細解析 3つの衛星によって観測されたXクラスフレアについて解析を行った。特に、プリフレア発光がみられた領域において詳細な彩層分光観測を行っていたIRIS衛星のデータを用いて、トリガ領域上空のプラズマの運動を解析し、フレアトリガ解析におけるプリフレア発光の重要性の検証を試みた。その結果、プリフレア発光が見られた領域のごく近傍で、特徴的なプラズマの運動(彩層ジェット)をとらえた。これは、光球面磁場データの解析結果から推測されるフレア発生シナリオとも整合し、我々がこれまでに開発した解析手法(Bamba et al. 2013)の妥当性を示す結果を得た。 (2) SDO衛星により観測されたフレアの統計解析 SDO衛星が2014年2月末までに観測したM5.0クラス以上の大規模フレア32イベントについて統計解析を行った。その結果、KB12モデルで”フレアが発生しない”と予想された条件のもとで発生したフレアイベントは存在しなかった。一方で、フレアの前兆現象として重要なプリフレア発光やフレアリボンの特徴を示さないイベントが、全解析イベントの約7割を占めることが明らかになった。これらのイベントについて、より詳細な解析を行った結果、磁場構造やフィラメントの位置関係、連続する小規模フレアとの関係などを詳細に解析することで、KB12モデルで説明可能であることがわかった。
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