研究実績の概要 |
本年度は放線菌の生産するプレニルインドール化合物カルキノスタチンAの生合成マシナリーの解明に取り組み、そのカルバゾール骨格形成の分子機構の解明を目指した。標識前駆体を用いたトレーサー実験の結果から、カルバゾールの炭素骨格はトリプトファン、ピルビン酸、2分子の酢酸に由来することが示唆されていた。この結果を考慮し、カルバゾール生合成の初期段階ではトリプトファンおよびピルビン酸の縮合、およびアシル側鎖の付加が生じ、次いでこれらの炭素鎖を骨格として閉環反応が進み、カルバゾール環構造が形成されると予想した。 そこで、炭素-炭素結合形成および環化反応に関与すると推定したケトアシルACP合成酵素CqsB1、機能未知タンパク質CqsB2、チアミン依存型酵素CqsB3に着目し、これらの組換え酵素を用いてin vitro解析を実施した。その結果、CqsB1, 2, 3の全酵素を含む反応系においてのみ、カルバゾール骨格を有する生合成中間体を確認することができた。この結果から、カルバゾール骨格の生合成における一連の増炭、閉環、酸化反応の全てをCqsB1, 2, 3が担うことが明らかとなった。特に、CqsB2は閉環反応およびオルトキノン形成を触媒するカルバゾール環合成酵素であることが判明した。 カルバゾール環形成の鍵酵素であるCqsB2の反応機構を解明するため、さらに本酵素のX線結晶構造解析を実施した。SeMet置換体結晶を用いたSAD法により構造決定を行った結果、CqsB2の初期構造が明らかとなった。今後、立体構造に基づく機能解析を進めることで、前例のないカルバゾール環形成の触媒機構を解明できると考えている。本研究により、自然界におけるアルカロイドの生合成機構の多様性の一端を示すことができたと同時に、新たな生物活性物質の創出に向けた生合成経路あるいは酵素の改良・設計への貢献が期待される。
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