2016年度は、昨年度の集中的な資料の収集・分析・考察の結果を踏まえて、積極的に発表の機会を持ち、論文にまとめることをめざした。 具体的には2016年7月の第58回意匠学会大会での発表、またこれに基づいた論文の執筆・投稿、また所属の京都市立芸術大学の美術学部研究紀要論文の執筆などで一定の評価を得た。 意匠学会の発表「戦後絹輸出貿易に於ける販売促進政策―GHQのデザイン育成を中心に―」では、2015年度に実施したワシントン公文書館での調査で得られた新知見により、今まであまり知られることのなかったGHQによる日本の図案家へのデザイン育成の実態を明らかにした。次にこの事実と日米双方の関連資料の発掘とその比較検討を深め「戦後日本繊維産業復興期におけるGHQのデザイン育成政策―絹輸出貿易における販売促進企画を中心に―」を執筆し意匠学会に投稿した。この論文は査読を経て採用となり、今年8月の意匠学会誌『デザイン理論』70号に掲載が決定している。 学内研究紀要では、GHQのデザイン育成政策や綿の加工貿易の振興により、対外的には輸出図案、国内的には圧倒的な洋装志向に将来を見た着物図案家が、いかにして服地図案へと転換していったかについて、当時の世界的な抽象表現への傾向と、1951年3月と8月に相次いで日本で開催されたマチス展・ピカソ展の影響に着目し「プリントデザイン黎明期におけるマチス・ピカソの影響―戦後国内向けプリント市場の成立 1950年前後を中心に―」として発表した。 また本年1月に所属大学に予備論文を発表、審査を経て博士論文提出の資格を得た。今後はDC2採用時の研究テーマで本年10月に博論提出を目指す。ここでは今年2月に英・仏研修で再確認した西欧テキスタイルデザインの抽象的方向と日本の伝統的意匠の抽象性との近似と相克を分析して戦後の服地デザイン黎明期の諸問題を考察する。
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