研究実績の概要 |
本研究では、5mass%以上の水素密度を有し、室温に近い温度領域で脱水素化・再水素化できる固体水素貯蔵材料を創出することを目的として、ホウ素系錯体水素化物MBH4 (M = Li, Na, K)と遷移金属系錯体水素化物Mg2FeH6との複合材料(MBH4-Mg2FeH6)をメカニカルミリング法を用いて合成し、脱水素化・再水素化反応に対する複合化効果や錯イオンの特性と熱力学的安定性との相関を解明する研究に取り組んだ。 ホウ素系錯体水素化物MBH4は7~18mass%の高い水素密度を有するが、錯イオンBH4において水素がホウ素原子と強固に共有結合していることに起因し、脱水素化温度は400℃以上と高い。本研究では、Mg2FeH6との複合化により、その脱水素化温度がそれぞれ約150から200℃程度も低下する特筆すべき現象を見出した。粉末X線回折測定ならびに各種熱分析測定の結果からは、脱水素化温度に至るまで新たな水素化物相などの形成は確認できなかったが、熱力学的安定性の差が大きいMBH4とMg2FeH6とが複合化後に同じ温度域で脱水素化することが判明した。 上記の複合化効果を詳細に評価するため、モデル系としてMをLiに選定した複合材料(LiBH4-Mg2FeH6)で熱重量・質量分析や圧力・組成・等温測定を用いて反応過程での錯イオン間の水素交換や熱力学パラメーターの解明の研究を進めた。その結果、複合材料ではミリングや加熱過程において2種類の錯イオン間で活発な水素交換が行われることやLiBH4だけではなくMg2FeH6も熱力学的に不安定化されることで脱水素化反応が促進されること、組成比の最適化による脱水素化に加えて再水素化反応も促進され、複合材料は繰り返し水素を吸蔵・放出しても水素容量の減少がなかったこと、などを実験から明らかとし、それに基づいてモデル系での複合化効果を提案した。
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