研究課題
特別研究員奨励費
本研究によって、幼少フェロモンESP22が雌マウスに受容された際の行動出力とそこに至るまでの情報制御機構を明らかにすることに成功した。生後2-3週令の幼少マウスの涙液中に分泌される約10 kDaのペプチドESP22は、単一の鋤鼻受容体V2Rp4で受容される。そして、母親マウスと交尾未経験雌マウスに対して異なった行動出力をもたらす。その中で、交尾未経験雌マウスに対しては、雄マウスがマウント行動を仕掛けた際に、そのマウント行動を拒否する行動を促進することが明らかになった。その際に、ESP22はまずV2Rp4を発現する鋤鼻神経細胞で受容され、副嗅球へとその情報が伝達された後、MeAならびにBNSTへと伝達されていくことが示された。BNSTに分布する神経細胞の大半は抑制性の細胞であること、また、VMHvlがBNSTの神経細胞の軸索の主要な投射先であることが、並行する研究で明らかにされた。これらを合わせて考えると、ESP22が交尾未経験雌マウスに受容されると、情報がBNSTへと伝達され、BNSTの神経細胞がVMHvlの活動を抑制することで、拒否行動が促進されると考察される。幼少フェロモンESP22は母親マウスを近くに留まらせ、それ以外の雌マウスの性行動を抑制する。自然界において、野ネズミは雌個体がなわばりを形成し、周囲の雌個体によるなわばりへの侵入が観察される。この際に、性的モチベーションが高い個体ほど、攻撃性が高い。また、雌マウスは妊娠に成功すると、攻撃性が高くなることが知られている。ESP22が雌マウスの性行動を抑制することによって、攻撃性の高い個体が幼少マウスの周囲に存在する状況を未然に防いでいる可能性が考えられる。また、ESP22が母親マウスを近くに留まらせることにより、幼少マウスは母親マウスの近くに長い期間生息することができ、被食率を低く保てるとも考察される。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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Current Biology
巻: 26 号: 9 ページ: 1229-1234
10.1016/j.cub.2016.03.029