前年度までに、細胞膜、小胞体、ミトコンドリア、リソソーム、および細胞質を標的とした多様なオルガネラ標的二価鉄蛍光プローブの開発を達成した。当該年度では、これらを応用した蛍光イメージング研究に加え、二価鉄イオンに対してレシオ型の蛍光応答を示す細胞質拡散型プローブや、ヘム選択的な蛍光プローブの開発を実施した。 (1)小胞体局在型の二価鉄蛍光プローブ (RhoNox-4)を応用し、細胞内二価鉄イオン濃度の変動を引き起こす化合物を探索するためのハイスループットアッセイを実施した。薬効既知の3399化合物に関して調査したところ、最終的に7種のヒット化合物を得た。以上より、RhoNox-4は鉄代謝の変動を引き起こす化合物を探索するための研究ツールとして有用であり、基礎研究から創薬研究まで幅広い分野での貢献が期待される。 (2)細胞質拡散型のレシオ型二価鉄蛍光プローブの開発を実施したが、プローブの細胞内動態の問題から、有用なプローブ創出には至らなかった。しかしながらこの研究過程で、二価鉄イオンではなく遊離ヘムに対して選択的な蛍光応答を示すプローブ(HP1)を偶発的に見出した。生体内におけるヘムの挙動は、鉄代謝と密接な関係にあることに加え、鉄代謝と同様にその詳細な挙動は未解明であり興味深い。そこで、有用なヘム検出手段の確立を目的とし、HP1を基盤とした構造展開を実施した結果、よりヘム選択性の高いプローブ(HP5)を見出すことに成功した。本プローブは生体内における遊離ヘムの挙動を解明するための有用な研究ツールに成り得る。
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