研究実績の概要 |
近年、身近なエネルギーを再利用するエネルギーハーヴェストが注目されている。その中で温度差を利用して電力を創出する熱電変換は、無駄に捨てられている廃熱を電力に変換する手法であり、生活な身近なところで発電が可能である。しかし、高い変換効率には高い導電率と低い熱伝導率が必要であるが、通常の金属では電気と熱の伝導の担い手が同じであり、その独立制御が不可能である。しかしグラフェンは、電気は電子がキャリアであるが熱は格子振動(フォノン)が担い手であるため、フォノンのみを制御すれば熱電変換性能の飛躍的な向上が期待できる。 今年度はグラフェンのフォノン制御・熱電変換応用に向け、高導電率・低熱伝導率グラフェン膜の合成を目標とした。昨年度確立したグラフェンのドメイン拡大化の方法に加え、反応中の同位体メタンガス(12CH4, 13CH4)を切り替えることにより、単結晶内での同位体グラフェンヘテロ構造の作製に取り組んだ。さらに、これらの同位体グラフェンヘテロ構造のヘテロ接合界面間の距離を、同位体メタンガスの流入時間制御によって、コントロールした。このヘテロ接合界面間距離の制御が可能になったことで、グラフェンチャネル中のヘテロ界面の数によるグラフェンの熱伝導率への影響を調べることが可能になった。グラフェンチャネル中に同位体ヘテロ接合界面を導入すると、数の増加に応じて熱伝導率の減少を観測できた(界面一つで33%の減少、界面二つで50%の減少)。このことから、ヘテロ接合界面間距離を小さくし、ヘテロ接合界面の数を増やすことによって、グラフェンのさらなる熱伝導率制御が可能であることを明らかにした。また、作製された同位体グラフェンヘテロ構造は、電界効果移動度が5,000cm2/Vsと高品質なグラフェンと遜色ない値を示し、導電率の低下が見られないため、効率よく熱電変換性能の向上が可能である。
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