研究実績の概要 |
APOBEC3 ファミリータンパク質は,HIV-1 を含むレトロウイルスやレトロトランスポゾンなどの増殖を抑制するヒトの抗ウイルスタンパク質である.HIV-1 は感染細胞内で Vif を発現し,ユビキチン・プロテアソーム系を介したAPOBEC3 の分解を促進することで,APOBEC3 の抗ウイルス活性を中和する.本研究課題では7種類の APOBEC3 ファミリータンパク質の中でも,高い抗 HIV 活性を有する APOBEC3F に注目し,APOBEC3F と Vif の相互作用に関する構造学的・生化学的な解析を実施した.
今年度は研究計画に基づきAPOBEC3F の変異体を用いた APOBEC3F と Vif の結合に関する生化学的な解析を行い,両者の結合に関与する13 のアミノ酸残基を同定した.本解析から同定されたアミノ酸残基を,申請者らによって決定された APOBEC3FのC末端ドメインの結晶構造にマッピングし,APOBEC3FのVif 結合インターフェイスの詳細な構造学的特徴(APOBEC3F の Vif 結合インターフェイスはαヘリックス2と3, 4 に亘って展開されていること,主に負電荷を帯びていること)を明らかとした.また,Vif についても変異体解析を行い,Vif の結晶構造(Guo et al., Nature, 2014)上に重要なアミノ酸をマッピングしたところ,Vif の APOBEC3F 結合インターフェイスの表面積や表面電荷等の構造学的特徴が相補的であることがわかった.本研究課題で明らかとなった上記のAPOBEC3F とVif の結合に関する構造情報は,両者の相互作用を標的とした抗 HIV 薬開発における重要な基盤情報となると考えられる.これら研究成果はJ. Virology, 90(2), 1034-1047 (2016) に掲載された.
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