本研究では、未遂犯と具体的危険犯(法益侵害の危険を内容とする犯罪)を題材に、刑法における危険概念の研究を行った。日独の判例・学説の調査・検討を通じ、未遂犯と具体的危険犯との間の構造の差を浮き彫りにし、それぞれの議論の文脈で用いられる危険概念の異同を明らかにした。さらに、未遂犯論においては、従来、危険概念が、犯罪結果を発生させた可能性という意味と、結果発生の近接性という意味の2通りに用いられてきたことを解明し、それぞれの場面の危険判断の方法に関する提言を行った。このように危険概念を個別化する試みは、従来あまりなされてこなかったことから、本研究は今後の議論に有益な示唆を与えるものだといえる。
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