研究課題
若手研究(B)
研究目的: 糖尿病性腎症患者の糸球体と正常糸球体を用いる定量的なプロテオームの比較解析によって、糖尿病性腎症に発現変動タンパク質を同定し、糸球体傷害に関与する可能性のあるタンパク質候補をリストアップする。研究方法: 糖尿病性腎症患者および腎疾患の既往のない患者の摘出腎及び剖検腎組織を用い、病理学的観察で腎症の病変を認める糸球体と認めない糸球体を判別し、Laser microdissection法で糸球体切片を採取した。採取された糖尿病性腎症患者の糸球体と正常糸球体のラベルフリー定量プロテオーム解析を質量分析計で行った。研究結果: 糖尿病性腎症群及び正常コントロール群の糸球体サンプルを質量分析計で解析し、それぞれ、約2400種類と3200種類のタンパク質を同定した。同定されたタンパク質のうち、約1800種類のタンパク質は両群に共通するものであった。これらのタンパク質について、糖尿病性腎症群に糸球体発現が50%以下或いは2倍以上に変動した、かつ統計学分析で有意差のあるタンパク質が591種類(低下:75種類; 増加:516種類)同定された。発現変動タンパク質を用いたGene Ontology (遺伝子の細胞構成要素、分子機能および生物的プロセスに関するアノテーションデータベース) 解析によって、膜たんぱく質、細胞骨格の構成、分子間結合、シグナル伝達に分類されたタンパク質が糖尿病性腎症の糸球体傷害に関わる可能性のある分子としてリストアップされた。考察と結論: 糖尿病性腎症患者の糸球体を用いた比較的定量プロテオーム解析によって、糖尿病性腎症の糸球体で発現変動タンパク質を同定し、糸球体傷害に関わる可能性のある分子をリストアップした。今後、これらのタンパク質が糖尿病性腎症にどのように関与するかを検討し、その発症機序を解明する必要があると考えられる。