研究実績の概要 |
本年度は頭頸部癌におけるEMT過程の進行に伴い、がん細胞の運動能が増強し血管内移動(TEM)を起こし遠隔転移を起こす過程においてESRP1分子の低下がどの様に関与しているのか頭頸部癌細胞株を用いてin vitroに研究を進めた。 まず我々はESRP1発現が低下した細胞においてアポトーシスの形態がどう変化するのかを調べた。siRNAを用いて頭頚部扁平上皮癌細胞株であるSASおよびHSC4細胞においてESRP1をノックダウンし、抗がん剤(docetaxel)添加して24時間後のアポトーシスを調べた。ESRP1発現細胞に比べて発現低下している細胞ではアポトーシス抵抗はなかったが、細胞質に泡沫状変化が顕著に見られた。この形態変化からは細胞死の一種であるpyroptosisの可能性があることが示唆された。Pyroptosisの特徴として炎症誘導性サイトカイン(IL-1bやIL-18)の増加があるため、次に ESRP1ノックダウン細胞において、炎症誘導を起こしうるサイトカインが分泌されるかどうか調べた。頭頸部癌細胞株SAS, HSC2, HSC3, HSC4, Ca9-22, KUMA1, Gun1細胞株それぞれでESRP1ノックダウンを行い、48時間後の上清を回収、TNF-alfaおよびIL-1betaサイトカインの分泌の程度をELISAで調べた。TNF-alfa分泌についてはいずれの細胞株ではほとんど発現上昇していなかったが、IL-1betaについてはSAS, HSC4, Ca9-22. KUMA1細胞において分泌が上昇していた。これらからESRP1発現が低下している頭頸部癌細胞では炎症誘導性サイトカインであるIL-1betaの分泌亢進が起こっていることがわかり、炎症が誘導されうることが示唆された。次にIL-1betaを誘導する機序を調べたところHMGB1遺伝子の発現が増強し、ESRP1ノックダウンしたがん細胞の上清中にもHMGB1分泌が亢進していた。これらの結果から頭頚部がん細胞においてEMTが起こり、ESRP1が低下している状況下ではアポトーシスの形式が異なり、炎症誘導を効率的に起こす可能性が高いことがわかった。
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